山口地方裁判所下関支部 昭和43年(ワ)141号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(1)原告欽治の受傷部位・程度、後遺症
(イ)頸髄損傷(むち打ち損傷)の傷害を受けた。
(ロ)事故直後における前田医院の診断では、全治一〇日間の軽傷であつたが、その後首の調子が良くないので昭和四〇年九月八日ごろから松井整形外科に約二か月間入院したのち、同年一二月一〇日から二七日までと、翌四一年四月一八日から七月二日まで九州労災病院に入院し、右退院後約二年間同病院に通院して治療を受けた。
(ハ)昭和四三年九月ごろの症状は、頸髄損傷、両尺骨神経不全麻痺、小脳症候群の病名で、めまい、頭重感のほか、頸椎運動障害(運動範囲は前後屈六〇度、左右屈三五度、左右回旋九五度)、第六・七頸椎々間板狭少化、歩行失調(千鳥足、左傾、杖必要)、右上肢全体知覚純麻などがあり、軽易な労務にしか服しえない状態であり、右症状はその後あまり改善されないまま現在に至つている。<証拠略>
(2)原告欽治の損害
合計 四、六〇八、八三四円
(イ)逸失利益 二、六〇八、八三四円
(A)職業、収入、労働可能年数は、原告欽治主張のとおり認められる。<証拠略>
(B)労働能力喪失率(減収率)
原告欽治本人尋問の結果によると、原告欽治は受傷後現在まで前記後遺障害((1)(ハ))のため休業中であること、労災保険の休業補償が打ち切られた昭和四三年七月二八日以後は、前記会社から従前の給料相当額を借用して生活を維持していることが認められる。
右のように、被害者が事故後未復職で収入を得ていない場合には、その将来における労働能力の低下の程度とこれによる減収見込み額を基礎として逸失利益を算定するほかはないけれども、右労働能力の低下の程度および減収見込み額は、種々の錯雑した事由のため、当事者においてこれを正確かつ具体的に証明することの困難な場合が多く、本件においても、原告欽治の前記後遺障害による労働能力の低下の程度、右障害の継続期間および減収見込み額を認めるに足りる的確な証拠はない。しかし、だからといつて、原告欽治の逸失利益の損害につき証明がないとしてその賠償を認めないのは、証明の対象たる右損害の性質に照らし、きわめて妥当性を欠くのであつて、かような場合においては、証拠調の結果が損害の範囲を高度の蓋然性をもつて証明するに十分でなくても、裁判所は諸般の事情を考慮し、相当な損害額を認定しうるものと解する(ドイツ民訴法二八七条参照)。
そこで、右相当な損害額につき検討するに、<証拠>によると、原告欽治の前記後遺障害の程度は、同原告の主張するとおり、労基法施行規則別表第二身体障害等級表五級に該当すること、同原告は二〇才のころから自動車運転手として生計をたててきた非事務系労働者であるが、現状では自動車運転の業務に従事しえないことが認められるところ、主として非事務系労働者の災害による多種類の傷害を格付けして、その労働能力の喪失率を明らかにした公的資料であることが当裁判所に顕著な昭和三二年七月二日労働基準局通達基発五五一号別表労働能力喪失表によると、右五級に該当する後遺障害の労働能力喪失率は七九パーセントとされているので、これら認定の事実に、前記受傷部位・程度、治療経過((1)(イ)(ロ)(ハ))および本件証拠上認められる諸般の事情を総合して判断すると、原告欽治は現在前記遺傷害のため従前の収入の七九パーセントを喪失しつつあり、この状態が本件事故後約一〇年間(前記昭和四三年七月二八日以後七年間)継続するものとして逸失利益を算出するのが相当であると考えられる。
(C)逸失利益現価算式(昭和四三年七月二八日基準)
一日平均1,563.6円×365×079×5.7863(年利五分七年のライプニッツ係数)
付言するに、中間利息控除法としてのホフマン法は、貨幣資本が一定期間単利法で利殖されることを前提として、現在から一定期間後の貨幣資本の現価を求める方法であるが、現代においては貨幣資本は六か月または一年を一期とする複利で利殖されることが最も普通なのである(たとえば銀行預金、郵便貯金)から、単利割引法たるホフマン法はその前提を欠き、これを採用する合理性に乏しい。そこで、複利割引法たるライプニッツ法を採用した(この点に関しては、ジュリスト三六三号五六ページ以下、判例タイムズ二一二号一三〇ページ以下参照)。
(ロ)慰謝料 二、〇〇〇、〇〇〇円
運転免許の取消しの点を除き、原告欽治主張のとおり認められる。<証拠略>(谷水央)